ビタミンCのブログ

ブロマガから移ってきました

パリのテロ事件は現代の宗教戦争だ

パリで大規模なテロ事件が起きて、100人単位の人が死んだらしい。恐ろしい事件だが、これは明らかに計画的なテロで、犯人はきっとフランス人国籍の持ち主のような気がする。3月だかに起きた出版社へのテロ事件も犯人はフランス系ムスリムだった。

なぜフランスでこういう事件が起きるか。理由は主に4つある。

一つは、フランスはISISに行く人が多い国であるということ。これは、図を見るとわかりやすい。

イラク・シリア戦線に参加している外国人

1位チュニジア3000人
3位モロッコ1500人
3位ロシア1500人
3位ヨルダン1500人
6位フランス1200人

欧米諸国ではロシアの次に参戦者が多い国がフランスなわけだ。ドイツの約倍。なので、もともとテロに参加する属性のあるイスラム教徒が多いわけだし、ISISに参加して戻ってきて今度はフランス国内に戦火を持ち込む人間も多いというわけだ。

理由2。ロシアではなくフランスでテロが先に起きた理由、それはフランスが早くからISIS爆撃に参加しているということ。今はロシアも空爆に参加しているが、10月からだ。当時の記事はこれ。昨日、ISISがロシアに宣戦布告したという報告があったので、今後テロが起きる可能性が高まった。ソース。ちなみに、大きくは報道されないが、チュニジアとかでもテロはがんがん起きている。そういう意味ではフランスは特別というわけではないかもしれないが、今回の事件のように計画的なものは明らかに意図的なもので、フランスと世界に向けたメッセージととらえていい。そのメッセージというか、動機の部分が理由3になる。

理由3。宗教とはなんだろうか。元オウムの上祐さんが話していたことだが、それは本質的には、「自己正当化のための、また、自尊心を満たすための道具」である。これ、とくに一神教でそういう傾向が強い。一神教というのは論理的に強く、その論理でほかの宗教を否定しやすいという性質がある。戦国時代に日本にきた宣教師の日記なんか読んで思ったことだが、一神教というのは当時の最強の自己正当化の論理であって、自分以外の宗教や考えを全部否定してまわるのである。イスラム教のことを言っているのではない、キリスト教のことを言っている。
そういう一神教の性格のゆえに、キリスト教国家というのはそれだけで自分が絶対的に正しく、自分の考えにしたがわない国や地域が劣等で征服して良いという発想をもっていたわけだ。そして彼らはそれを実行した。が、近代になって欧州では宗教が時代遅れになった。そうすると、今までのように宗教が自分の正当性を保証してくれない。そこでそうしたか。これ、フランスの話ね。
そこでフランスは、新しい価値観を生み出した。「自由平等博愛」がそれだ。この3つの概念は絶対的に正しいものであり、この考えにしたがわない国や地域は劣等か遅れているのであり、ゆえに征服して良いという発想をもった。ナポレオンはそれを実行した。ここまで全部歴史的な事実だ。
同じようにアメリカは、「自由と民主主義」が
絶対的に正しい価値観であり、この考えにしたがわない国や地域は劣等か遅れているのであり、ゆえにこの価値観をもった政府をそこに打ち立てるべきという発想をもった。そしてそれを実行してきた。

第二次大戦後、欧州は世界を征服するような力を失った。その代わり、とくにフランスは、自分たちが普遍的かつ絶対的な価値観を生み出したのであり、世界はそれに従うべき、という姿勢を強め、世界を概念的な次元で支配しようとしてきた。フランス、それにアメリカも同じだが、彼らは人類にとって普遍的な価値である自由とそれを実現するための民主主義を世界に広げようとしてきた。その結果の一つがイラク占領である。
これに対し、イスラム系の国は反発した、当然である、彼らにとって普遍的なものというはイスラム教しかないからだ。

今回、事件が起きたときオバマ大統領はこう言った。これはパリやフランスの人々への攻撃にととまらず、人類すべてと我々が共有する価値観への攻撃だ」。ソース。これはオランド大統領が言ってもまったくおかしくないセリフだ。なぜテロが価値観への攻撃となるのか。これは、上記の経緯をふまえておかないとまったく意味不明だ。

ISISや過激なイスラム教徒は、西洋的な価値観の押し付けによる世界支配に対して戦っている。これはワタシの考えではなくて、彼らはそう自己を定義づけているということね。そしてそのことをオバマやオランドも理解している。だからああいう発言がイの一番にでてくるわけだ。しかし、なぜそんな価値観だの宗教だのにそんなにこだわるのか。日本人にはピンとコないかもしれない。
大陸というのは、いろんな人種や文化をもつ集団がひしめき合い、つねに闘争していた(今もしているが)。戦争が起こった回数を調べてみると、日本の歴史の比ではない。その厳しい環境のなかで、自分の正当性を確保して、ほかを見下し、征服するというのは生き延びるための唯一の方法であって、これはセットになっている。ほかの文化を理解したり言い分を聞いていたら弱くなって滅びてしまう。大陸の人間というのはゆえにほかから批判されることに異様に敏感で、過剰に攻撃的である。そして、自分を守りほかを攻撃するために宗教や民主主義というものを必要とするわけだ。シャルリーエブドの事件に対するフランスの対応を見ると、いかに自由という価値観による自己正当化と他者への攻撃性が彼らの中で一体化しているかよくわかる。
フランスやアメリカなんかは民主主義や自由という理念以外に国の基礎がないので、それを手放したら死んでしまう、というくらい彼らにとっては大事なものである。それを自分らだけののものにしておけばいいのに、と日本人は思うが、そこはよそを征服して豊かになってきた彼らのDNAが許さない。要するに、これは彼ら自身が種をまいた宗教戦争である。

理由4。テロの理由というか火種は実はもう一つある。それは、フランス系イスラム教徒の存在だ。彼らの多くはフランス人の社会から切り離されており、疎外感と劣等感を抱いて生きざるを得ない。で、とくにそういう親のもとで生まれた子どもたちが、親とフランス両方への不信感を持ち、過激なイスラム思想に引き寄せられるという流れがある。ソースは各自ググッてくれ。
親の生き方や考えにも同意できず、フランス社会の価値観にも同意できずにくすぶっているイスラム教徒の子どもたちを洗脳するなど朝飯前である。彼らは別にもともと熱心なイスラム教徒であったわけでもなく、ただ不満をもって生きていただけで、過激なイスラム教徒になったあとでもコーランを読むわけではない。彼らはようするに、自己正当化する道具として「イスラム」を利用しているだけなわけだ。
そういう連中をとくにフランスで多く生み出す理由は、フランスがとくに理念的な次元で攻撃的な国であるからだ。たとえば公共の学校では宗教は否定される。よってイスラム教は公的に否定されるわけだ(信教の自由はあるが、自分の宗教を公の場に持ち出すことは許されない)。そういう国はほかにない。
フランスが人種差別の国だからテロが起こると思う人もいるかもしれないが、問題はそう簡単ではない、ということを説明したつもりだ。人種差別ならドイツのほうがもっとひどいが、ドイツのトルコ系ムスリムが大規模なテロをしたという話は聞かない。

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理由3は国レベルで歴史的な理由があるという話で、理由4は個人レベルの社会的な理由があるという話だった。これはもともと別々のものだったが、いまISISという勢力ができてきたことで、この2つが統合された。それぞれの動機をもった勢力をISISが集め、結果大規模な事件が起きるようになってきた。
ISISはアラブ系の富豪からも援助を受けているらしい。。欧州や中東のムスリムが感じている欧米的価値観や社会への疎外感と反発をISISは基盤にしていて、彼らの支持を集めている。テロのきっかけは空爆かもしれないが、空爆がなくても彼らは欧州でテロを起こしただろう。彼らの存在そのものが欧米的価値観への否定から生まれてきているからだ。

もう一度はじめの図に戻ると、イスラム教徒が多いインドやフィリピン、インドネシアからの参戦者が0なのは、それらの国では上で言ったような欧米的価値観対イスラム教という対立が起きていないからだ。文化的に欧米的価値観を受け入れてないので、問題も起きない。つまり、ISISが生まれた背景と同じ文脈を国単位で共有していないので、ISISへの参戦者もいない。もっとも、これらの国では別の文脈で過激な教徒がテロを起こしているのだが。