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ブロマガから移ってきました

フランス映画『RAW〜少女のめざめ〜』感想

rawという英単語には、「生肉」とか「訓練されていない人」という意味がある。そんな言葉が原題のフランス映画。16歳の少女が主役の、ちょっとエロティックでちょっとホラーな映画だ。監督はジュリア・デュクルノーという女性。この作品が初長編だ。

この映画で特徴的なのは、皮膚に対して加えられる攻撃だ。主人公の少女ジュスティーは、学校の寮にやってきた初日から先輩の過激な歓迎、というか横暴な仕打ちを受ける。そのしごきは新学期の間ずっと繰り返されることになる。物語的に重要なのは、うさぎの肝臓を食べさせらるシーンである。彼女はそこで初めて肉の味を覚え、これがのちの展開の重要な布石となる。

だが、それよりずっと重要なのは、集合写真撮影の際に先輩たちから浴びせられる血が、ジュスティーヌの顔にかかったり、夜のパーティーで彼女に青のペンキをぶっかけられたりするシーンだ。これはある種の暴力だが、あくまで皮膚に対する暴力であって、受けたダメージも水で洗えば落ちるものだ。ところが彼女は、まるで何事もなかったのように顔に血を浴びたまま授業を受け続ける。そして、ペンキのシーンではペンキを顔にべったりつけたまま男とキスをする。

それはともかくとして、皮膚に加えられる暴力が繰り返し描かれることによって、この映画は、観客に対して触覚的な知覚を与えることに成功している。この映画は、スクリーンを通じて触覚的な暴力を観客に与えるわけだ。実に不思議なことに、こうした感覚を映画によって与えてくるのは、世界広しと言えども、セリーヌ・シアマなどフランスの女性監督だけだ。

この映画は普通のホラー映画のように、怖い仕掛けがあってびっくり怖いというのではなく、見ているこちらの脳内に直接肉体的なダメージがくる、そういうタイプの映画だ。このセンセーションは今までの映画にはないタイプのものだ。生誕100年が過ぎて、映画はついにこんな作品を生み出すようになったのか、そんな感慨を持たされる、それがRAWという映画だ。